大西羊『作文集』

作文を書きます。小説も、書くかもしれません。

2019-01-01から1年間の記事一覧

欠席届け

九月九日 欠席 理由:寝不足のため。(あるいは秋のため) ひとこと 「さいきんがんばりすぎです。もっとさぼってください」 りょうかいです。 ごめんなさい。明日元気があれば(たぶん忙しいのでない)書き直します。

子供靴の小人のお弁当

これくらいのお弁当がさ…… もちろん僕は人間だ……知ってたかな? だからゴミを出さなければいけないし、風呂を掃除しなくちゃならない。ネスカフェの蓋にたまったほこりを取り除いてやらなきゃならないし、寒くなるたびに扇風機のつよさを変えてやる必要があ…

どうも。

どうも。 こんにちは。あるいは、こんばんは。たまにはこういう出だしもいいだろう。「たまには」という概念はどんなものにも希少価値を与える、じつに普遍的な魔法だ。「たまには」で色づけられていれば、すっぱくてまるで飲めたものでないシードルだって、…

サウス・サイド・オブ・ザ・スーサイド――その③

家の中へ 僕は案内されるままに歩を進め、南側さんより先に靴を脱いだ。杉の原木が靴箱のかたちに彫刻されていた。僕のスニーカーを含めると靴は四つあった。他の三つはどれも革靴で、大きさも、その色・艶にしても同じだった。ただ、内側の意匠がそれぞれに…

古着屋最後の午睡

古着屋最後の午睡 「ドリームズ」 youtu.be ほんとうはもっと違うものを書こうと思っていた。ただ、買い物をしたり、夢想したり、公園に行こうとして行かなかったり、銀行のお姉さんの笑顔がいいなあ、と考えていたりしていて、まともに時間が取れなかった。…

サウス・サイド・オブ・ザ・スーサイドーーその②

寡黙の人間 猫が足跡を残す砂の道があった。軽トラックはぼんやりと過ぎていった。道路からそれた横の道を、猫は先のほうまで歩いて行く。風を振りかわし、濁った水を踏み分けた。最後の砂のうえにすくっと立つと、僕のことを返り見た。尻尾をくるりと曲げ、…

九月三日の眠り(休載)

九月三日の眠り ほんとうはサウス・サイド・オブ・ザ・スーサイドのつづきを更新したかったのだけど、今日は忙しかったので、まあやらなかった。ただ、充実した日だったので、仕方がない。とくに、海は良かった。日本海のきわのきわでぱしゃぱしゃしたのが、…

サウス・サイド・オブ・ザ・スーサイド――その①

南側さん 高速道路をバスが過ぎていく。風景には山や、ちぎれた秋の雲があり、背の低い家々がある。海がその向こうにあるはずだが、まだここからは確認できない。ときどきに頭をもたげているススキの影には、小さく切り取られた秋を感じた。僕は窓の向こうを…

石だらけ

石が好きだ 僕は石が好きだ。ボーちゃんではないが、石が好きだ。 三歳になり、人類としての自覚に目覚めたときから好きだった。それは両手で作れる小さな円の中にも無数にあり、じつに豊富なものだった。園内にあった砂場から北の壁に沿って三角小屋の間を…

眠れる森の美女の城(嘘)

眠れる森の美女の城(嘘) 取り立てて、という話ではないのだけど、やはりディズニーはすごく人気のコンテンツであるために、ファンの数も到底多い。だから、今回は先に嘘であるということを示しておく。これから書くことは(まだ決まってないのだけど)眠れ…

壁と線路のはざま

壁と線路のはざま これは短い話だ。 ある作家が語っていた。「結局、書くことは事故療養ではなく、ささやかな試みにすぎない」。彼にその話をすると、鼻でふふんと笑ってから続けた。「そんなことはないさ。書くことで、救われる魂もある」。僕は安心する。…

階段の下

階段の下 僕が引っ越してきたとき、彼はすでにそこにいた。ずっと前からいたのだろう。はだけるようにしてうらぶれていた階段の、その下に、大きな体を丸めて座り込んでいた。階段は道路沿いにある文化住宅のものであり、僕は帰宅のときに道路を通るだけだっ…

天から降ってくるものども

あたまがかたい、れんがの、ように。 あたまがかたい、れんがの、ようだ。今日は予定がなくなったために一日を家で過ごしていた。もちろん外に出てもよかったのだけど、足がぱりぱりの筋肉痛で、まるで動けやしなかった。窓向こうの雲を数えることが、今日の…

バスのスケッチ

バランス 僕はけっこうお気楽な人間だ。たいていにこにこしてるし、なんでもゆるくやっている。生き方はかなり独善的で、まちがっていたとしても「まあいいや」の考えですぐに次に進む。そんな人間だ。 というのはじつはうそだ。僕はけっこう危うい人間だ。…

猫も憐れまない

アジフライを食べながら スーパーで半額シールが貼られているのは、昼過ぎに限られる。朝はまだことこと作っている途中だし、昼に並んでいるのはできたてのあつあつのお惣菜である。昼過ぎになってたくさんの人たちに見過ごされた惣菜たちだけが、半額の恩寵…

アウトバーンの牛

短い話 昔、ドイツに行ったことがある。ドイツとはヨーロッパにある国のひとつである。ユーラシア大陸にあり、ライン川のそばにある。ドイツは鴨川からだとずいぶん遠くの場所だった。たくさんの川を渡り、多くの野山を越していった。ときには海に出ることも…

八月二十四日休載

今日はずいぶん…… 今日はずいぶんと酔っ払っているために、休載とします。(たぶん)明日はちゃんと書きます。 今日いちばんのんだはハイボールです……ねえ、素敵じゃないですか、ハイボールって。まるで海賊の秘宝ですよね。ねえ、そう思いません?

くすんだトタン

カエルの吉蔵 カエルの吉蔵が目を覚ますと、空はぴったりとはりつくような雲で覆われていた。ごしごしと顔を洗って、はみがきをして、ゴミを出してから洗濯機のスイッチをいれた。そしてもう一度空を見た。グレイの色をした雲が青の色を完全に駆逐している。…

長い間妖精の底に。

まず胸にこみあげてくるもの いつのまに暗くなってしまったんだろう。そう考える。夜はとても静かな存在であるのだ。テレビでゴールデンの番組が始まる。酔っぱらった学生のわめきが空にひびく。夜に足音がないことを思い出す。足もないし、頭もない。腕も、…

リキの電話番号(Seaside 5)

大ノ木リカルド、その友達 リキ、つまり大ノ木リカルドの押し付けがましい態度はいまに始まったことでない。大ノ木さんの紹介で出会ったときからそうだった。 「俺はカリフォルニアで産まれて、カリフォルニアで育ったんだ。だからさ、君とは違うんだよ。そ…

イマジン・カリフォルニア(Seaside 4)

紳士とカップルと秋の日野のスターバックス 「アメリカに四季があるように、日本にも四季があるんだ」僕がそう言うと、リキはまず一度落胆したようだった。それもずいぶんと。まず飲んでいたコーヒーをゆっくりとテーブルに戻した。それからゆっくりと手のひ…

ペーパー・ムーン(シーサイド・スリー)

ペーパー・ムーン ここに来てから一週間が経過した。僕は少しずつここでの生活のリズムを保てるようになってきている。朝、夜がまだ空の端にひっかかっている時間に目覚める。まず顔を洗い、つぎにベッドを整える。眠れる彼女を確認しながらソルティー・ドッ…

彼の横顔(シーサイド・パートスリー)

彼の横顔 三十時間。これは私がこの三日間で睡眠に費やした時間だ。ちょうど十時間眠るのを三回繰り返した。一日目の夜、二日目の昼、三日目の朝からその夕方にかけて。私は起きるたびにストレッチをした。あまりに長い睡眠のせいで、筋肉が煉瓦のように硬く…

アラビアータの朝食と、近鉄の電車(シーサイド・パートツー)

旅行者の朝食 三日目、僕は朝食としてアラビアータのパスタをたっぷりと作った。朝の光が撒かれた豆のように窓から差し込む時間に、二人でそれを食べた。かなりお腹が膨れたので昼食は抜きにした。彼女はイカが美味しいといった。昨日のうちに買ってきておい…

シーサイド・スケッチ

シーサイド・スケッチ 僕らがついたときには、すでに日は傾きはじめていた。僕と彼女は、二人で家具を部屋へ運び込んだ。デスクとチェア、銀の食器と鉄の鍋。ヒヤシンスと花瓶に、CDプレイヤーと唐草模様の壁掛け……コンクリート打ちっぱなしの鈍色の部屋がま…

パスタ指南

好きなゲーム? 僕は、こう言うと意外だと言われてしまうのだけど、けっこうゲームをやるたちだ。ただ、ゲーマーというわけではない。僕がプレイするのは非常に限られた、ほんの片手で数えられるほどのゲームに限られる。クローバーの葉の数のように、三つ、…

ビート・ゴーズ・オン(パートツー)

ビート・ゴーズ・オン(パートツー) 「ザ・ビート・ゴーズ・オン」 youtu.be コインに100が印字されている。裏側には花が……なんの花だろう。銀色をしている。僕は銀色の花なんて知らない。誰も知らない。 僕が銀の花を探し始めたのは中学二年生の晩秋のこと…

崩れた本のたば

塩のステーキ いつもパスタを食べているのだが、たまにはなにかべつのものを食べたくなる。僕も人間だ。カーネル・サンダースがずっと笑っているのは人形だからだ。そんなとき、となりのスーパーで買うのはたいてが塩のステーキだ。もちろん、ほんとうに塩の…

昨日見た夢

昨日見た夢 ずいぶん長いあいだ夢を見ていた。死んだ元妻と彼女が出てくる夢だ。彼女たちは僕と少し離れたところで小さい声で話をしていた。声は蝶がはばたくように、本当にささやかな音で僕には聞き取れなかった。僕は彼女たちを求めて近づこうとするが、そ…

熾火

グラハム・ベル グラハム・ベルが作った発明品のひとつに、電話というものがある。昨今というより、一時代まえからすでに普及している、いまや人間生活にとって欠かせないもののはずだ。 だが、僕は電話が苦手で、ほとんどとらないし、まったくかけない。ほ…