大西羊『作文集』

作文を書きます。小説も、書くかもしれません。

眠い

うんざりする

とても眠い。すごくそう思う。眠たいことを考えていると、なんだかぐったりしてくる。どうしてわざわざ眠たくならなければいけないんだろう? そう思う。眠らなくてもやっていけるようにしてほしい。あるいは、ずっと眠っていられるようにしてほしい。

眠ること――僕は人生の問題として眠ることについて取り組まないといけない。四六時中、どんなときでも睡眠時間を憂慮しなければならない。昼寝のタイミングだとか、寝酒を飲む時間とかを気にしなくちゃならない。はあ。うんざりする。

ぱちん、ぱちん。

爪を切りながら、僕はそんなことを考えていた。七月十四日。僕の部屋は手に取れるくらい湿っぽい空気でいっぱいになっている。息をするのも何だか気だるい。ざあざあ降り続けてやまない雨にもうんざりだ。ぱちん、ぱちん。

深爪にもうんざりだ。うんざりのワンダー・ランドがあれば、きっと僕は一等賞をとれるだろう。そう思う。

ぱちん、ぱちん。

 

創作と不健康

さきに断っておくけど、今日はべつに特別な話をするわけではない。凡庸な話をする。もちろんいつもの話が特別なわけでもない。ただ、今日がとりわけ凡庸だということだ。

凡庸なるまどろみ。いとをかし。

僕がこうして眠たくて仕方ないのにはもちろん理由があった。それは昨日の晩のことだ。七月十三日の晩、帰ってきたとき僕はもうすでにずいぶん疲れていた。その日は結社(前回とはまたべつの結社だ。僕はいくつかの結社に属している。きっとあなたもいくつかの結社に属しているはずだ)の用事が夜遅くまであったからだ。僕はそこで他人のスマホをのぞき込んだり、ハリボーのマスコット・キャラクターのスケッチをしたりした。僕はサッポロ・ビール(黒)をグラス八杯分飲んで、ハリボーを食べた。そして雨に濡れながら家に帰った。途中で電車に乗り違えたが、それは問題にならなかった。ただ、疲れていた。どうしようもなく。

そんな僕は一時すぎに床についた。お風呂に入り、部屋をかんたんに片付けて、床についた。それからしばらく考え事をした。僕はしばしば床で考え事をする。床はおおむね静かであり、暖かいので、想像の条件が満たされているからだ。

そして、これは困ったこと。困ったことに、そのときの僕に小説のアイデアが思いうかんでしまったのだ。はあ。僕はだらしない自分のアイデアにうんざりしながらごそごそと布団を出た。体は缶の底にちょっとだけ残ったビールみたいにぐったりとしていた。体をなんとか持ちあげると、頭の中でそれがちゃぷちゃぷと揺れた。

そして最終的に僕が眠ったのは五時だった。床についたとき、数羽の雀が雨の相談をしていた。そのせいで眠るのにも少し時間がかかった。

 

ときに、僕はこのように不健康な創作をしてしまう。僕はそのたびにうんざりする。どうしてこんなことをするんだろう? そう思う。ただ、出来上がる小説の程度は不健康な創作と関係を持たない。健康な創作で駄作を作るときもあれば、不健康な創作で駄作を作るときもある。良作はにじますのようで、どんなときにもまれな存在だ。

ただ、これは仕方のないことなのかな、と思うようにしている。きっと、僕はこのように作られた存在なんだ。不器用であり、創作に熱心である。それだけなんだ。だから受け入れるしかない。寝不足の頭で響く鈍痛のことも、諦める。それしかない。そう思うとすこし楽だ。もちろん、眠たさが軽減されるわけではない。

 

イン・カフェイン

だから、今日も僕はこうして不健康(あるいは健康)な創作を繰り返す。その姿はダッシュ・ボードのうえで首を振り続けるボブル・ヘッドに似ている。ぐら、ぐらと、とりとめなく頭を揺らして考えている。底に溜まった寝不足のビールがちゃぷちゃぷと音を立てる。でも、こんな暮らしもいつか終わるんだろうな。七月十四日の雨はそのことを予知させるように降っている。こんなうんざりする暮らしも、梅雨のようにある日からぱたりとやんでしまうんだろうな。そして、それはちょっと寂しいことだ。たとえ、どれだけうんざりさせられることでも、終わってしまうと心は寂しくなってしまう。うんざりすることには、ある程度の親しみの感覚があるからだ。本当に嫌なことならば、僕たちはそれをつらいと言ってつっぱのけるだろう。だけど、うんざりと表現するのであれば、結局そこには弱い愛があるのだ。そう考える。けっこう変な話だけど、実際にそうだと思う。

でも、やっぱり眠気と一生戦っていくのはなんだかばかげてる気がする。眠気は波のようなものだ。僕をゆさぶるまどろみの波。でも、僕は砂浜にいたい。海もいいけど、砂浜でやらなきゃいけないことがたくさんあるんだ。すいか割りとか、ビールとか、女の子とのおしゃべりとか。だから僕はコーヒーを飲んだ。眠気との一時休戦だ。だが、あとになって一層深いまどろみが押し寄せた。はげしく、そびえる、まどろみの波。それは僕をずいぶん沖のほうまで運んだので、僕はあきらめて眠ることしかできなかった。