大西羊『作文集』

作文を書きます。小説も、書くかもしれません。

冷たいものがどんどん動きを失っていくように

なるべく早く眠るように

僕は普段なるべく早く眠るようにしている。寝不足は避けなければならないことは、当然だけど重要なことだ。そして、それと同じくらい重要な理由として、夜の陰鬱さにのまれないようにというものがある。

夜の景色を見ているとだんだん不安になる。そういうことってありませんか? 

夜とは、とても大きな存在であると思う。アパートの4階の、ひとりぼっちの部屋で抱え込むには、あまりにも重たい存在であると思う。

ねえ、そう思いませんか?

 

冷たいものがどんどん動きを失っていくように

それでも、どうしても眠れない日はある。とても込み入った用事があったり、考え事が迷宮のような場所に入り込んでしまったり、夜の魔力が僕らにとり憑いたり。

 

「冷たいものがどんどん動きを失っていくように、夜もこの世界に固定されてしまわないのだろうか」

そう考えた日の僕も、理由によって眠れない僕だった。じつに、多くの理由を抱えている僕だった。ときに僕は理由を抱えすぎる。それを説明して伝えようとするが、手段は膨大な理由に対してはあまりにも小さい。時間をかけて理由を整理しようと試みるが、昼時間はあまりにも短い。

僕がふと、考え事の世界から手を上げたとき、すべてのものものはしんとしていた。風もなく、コンピュータや冷蔵庫でさえその息をひそめていた。それはとても冷たい世界だった。肌で感じる温度ではない。心の裏側に張り付くような、緊迫した冷たさだった。夜は窓の向こうでその体を横たえている。

僕は不安になる。この冷たさで、夜も世界の中に固定されてしまわないのだろうか。そう考える。

すでに僕の部屋はとてもその速度を落としていた。北の空気が吹いてくれば、完全に停止してしまうように思えた。

 

夜が固定された世界――そのことについて、僕は考えたくなかった。それはこちら側から見るだけでも、十分に恐ろしく、触れてしまえば本当に僕がのまれてしまうようだったからだ。

だけど、僕はその世界を想像した。眠れない長い時間の中で、夜を思った。

しばらくの沈黙があった。誰のための沈黙だったのだろう?

ある時点で、僕もその動きを完全に停止していた。あるいは夜も、世界に固定されていた。

 

そういう夜があった。