大西羊『作文集』

作文を書きます。小説も、書くかもしれません。

2\3

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のっぺりとした黒い壁にはそう書かれていた。7upでいっぱいになったアイス・グラスを片手に、それをぼんやり眺めていた。親切にも、手すりは階段の両側についていた。踊り場に差し掛かるところで少し途切れ、直線が定規で引かれたように続き、また少し途切れ、のぼる階段のほうへ伸びている。僕は親切な手すりに寄り掛かった。両目を数字に向けながら。

 

京都駅前にビルがある。もちろん、ビルはたくさんある。梅田駅前にもあるし、アマゾンの奥にもある。

その日、僕はあるグループの一員だった。事情があって、ここでははっきりと言えないのだが、それはちょっとした結社のようなものだった。結社の人々は用事があって、そのビルに向かっていた。結社は背筋をぴんと伸ばして歩いていた。僕も背筋をぴんと伸ばした。ぴんとするのがルールだった。ルールは守られなくてはならない。背筋は伸ばされなければならない。

ビルは非常に密な箱を引っ張って伸ばしたようなところだった。結社は契約を経て305の部屋をとった。荷物を置き、コートを脱ぎ、帽子を脱いで右手でマイクを握ると、できるだけ長く歌をうたった。

もちろん、僕も歌をうたった。ラブ・ミー・ドゥ、ザ・フール・オン・ザ・ヒル、レッツ・グルーヴ、ラ・マルセイエーズ。僕はかなりぎりぎりのキーでうたっていた。キーを変えることは許されなかった。ルールは守られなくてはならない。レッツ・グルーヴ、マルセイエーズ、カム・トゥゲザー。

 

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僕はちょっと疲れて、305から抜け出してきたところだった。

数字があった。二階から、三階にかけての踊り場で、のっぺりとした黒い壁にはそう書かれていた。ぴんとしていて、僕は背が高く、数字はそれよりも高かった。

二階に無人のバー・カウンターがあり、そこで僕は7upを選んだ。階段を半分のぼり、親切な手すりのそばで、眺めながら飲んでいた。白い右手はアイス・グラスをきゅっと握った。

飲み切り、階段を降りた。

無人のバー・カウンターで7upをついで、また親切な手すりで飲んだ。後頭部をぴたりと黒い壁に貼り付けて、とろんとした瞳で数字の不思議を捉えていた。

 

しばらくの時間があり、結社はビルをあとにし、僕は京都駅に解き放たれた。ただ、地下鉄に乗ってもなお、数字のことが忘れられなかった。地下鉄はうんうん、唸りながら長い地下を走った。僕は数字のことを考えていた。数字は薄く延びてゆき、頭の後ろに貼り付いた。それはのっぺりとしていて、真っ黒く、こすりつけても取れなかった。そばには地下鉄のドアーがあり、右手は何も握っていない。空虚なつり革が頭上の高いところに張り付いていた。

 

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ドアーは閉じて、唸る地下鉄が僕の最寄り駅をとおり過ぎた。空虚なつり革が、僕の後ろに貼り付いた。

あのむこうに、数字がちらと見えた気がした。もちろん、そんな気がしただけだ。